空調熱源設備の台数按分とは?具体的な例と算出方法をわかりやすく解説
建築物の省エネ適合検査などで申請手続きをする際、空調熱源設備の台数按分について指摘を受ける場合があります。
この記事では、空調熱源設備の省エネ計算で台数按分が求められる理由や算出方法についてわかりやすく解説します。
建築物の空調設備とは
建築物の空調設備とは、空気を洗浄・換気したり、温度や湿度・気流を調整したりして室内環境を快適に保つ機能を持つ設備です。
空調設備=エアコンと捉えがちですが、一般的なエアコンは室内の温度や湿度を調整する機能はあるものの、浄化や換気をするシステムは含まれていません。
反対に換気設備は室内の空気を綺麗にする機能がありますが、温度や湿度を調整する力はありません。
エアコンと換気システム両方の機能を併せ持ったものが、空調設備です。
空調設備には、人が過ごしやすい空調に整える「保健空調」と、物品の品質管理や動植物の生育環境を守るのを目的とした「産業空調」があります。
空調設備の要である熱源設備とは
熱源設備とは、石油やガス、電気などを使用して温水や冷水などの熱源を生み出し、冷風や温風を空調設備に送る設備です。
熱源設備が故障すると、温度調整機能が使えなくなるため、空気設備の要と言っても過言ではありません。
オフィスや公共施設などの非住宅で使用する熱源設備は、大きく分けて「個別熱源方式」と「中央熱源方式」の2種類に分類されます。
中央熱源方式
中央熱源方式は、機械室など一カ所に設置した熱源設備で建物全体や複数の室の空調を行う方式です。
中央熱源方式の代表的なシステムは、下記のとおりです。
システム | 特徴 |
単一ダクト方式 | 一台の空調熱源設備からダクトを通して各部屋に冷風や温風を送る |
定風量方式(CAV方式) | ダクト方式のひとつで、一定量の送風で温度を調整する。室ごとの温度調整は難しいが、新鮮な空気の供給が可能。 |
変風量方式(VAV方式) | ダクト方式のひとつで、室の人数などによって温度を自動調整するため省エネ。天井が高いと空調が効きにくいことも。 |
ファンコイルユニット方式 | 冷温水の熱を使い各階のファンコイルユニットで空調する。室ごとの温湿度設定ができるが外気を導入する機能はないため、外気を取り込むダクトなどを設置する必要がある。 |
中央熱源方式は、一カ所で建築物全体の空調を管理できる効率の良さがメリットです。
また個別熱源方式と比較して、メンテナンスや更新も容易だとされています。
個別熱源方式
個別熱源方式は室ごとに空調や熱源設備を配置し、それぞれで空調を管理するシステムです。
個別熱源方式の代表的なシステムは、下記の2種類です。
システム | 特徴 |
マルチ型エアコン方式 | 屋外の室外機1台に複数の室内機を接続して、温湿度を自動調整する。各室で空調管理が可能だが、新鮮な外気を取り入れるには熱交換器などの設置が必要である。 |
パッケージ型ユニット方式 | 空調や熱源設備がすべてパッケージになっている方式で、ゾーンごとに設置して各室の空気を調整する。別途必要な設備がなく、ゾーンごとに空調管理が可能。 |
個別熱源方式はゾーンや室ごとに空調管理ができるため、複数のテナントが入ったビルなどで採用されています。
代表的な熱源設備4種類
熱源設備が熱源をつくって提供する方法は、主に4種類です。
それぞれの設備の特徴を、ひとつずつ解説します。
温熱源(ボイラー)
水を熱して温水や蒸気を作る技術が、温熱源(ボイラー)です。
熱源を生み出す主な方式は、下記の2種類です。
方式 | 特徴 |
蒸気ボイラー | 水を加熱して蒸気を発生させて温風をつくる仕組み。部屋を暖めたあとの蒸気は水に戻り、再利用される。熱効率が良く長時間の運転に最適だが、メンテナンスに手間がかかる。 |
温水ボイラー | 加熱した水を使って空気を暖める仕組み。使用後の温水は水に戻り、再利用される。メンテナンスは容易だが蒸気ボイラーよりも熱効率が低め。 |
ボイラーは給湯器などでよく採用されており、空調設備では床暖房で利用されています。
またボイラーの出す蒸気は加湿効果もあり、広い空間での加湿器として活躍するケースもあります。
冷凍機
冷凍技術を使用して、冷却の熱源を作り出すのが冷凍機です。
熱源を生み出す主な方式は、下記の2種類です。
方式 | 特徴 |
圧縮式 | フロンやアンモニアなどの冷媒を「圧縮→凝縮→膨張→蒸発」のサイクルを繰り返して冷却用の熱源に変える。シンプルな構造で壊れにくいが消費エネルギーが大きい。 |
吸収式 | 水と吸収液を冷媒にして「蒸発→吸収→再生→凝縮」のサイクルを繰り返して冷却用の熱源に変える。消費エネルギーが少ないが経年劣化しやすい。 |
夏場の熱くなったアスファルトに打ち水をすると、水がかかった場所の温度が下がるように、冷凍機は液体が気体に変化する際に周囲の熱を奪っていく性質を利用して冷却をしています。
この冷凍機の仕組みは、エアコンなどの空調設備だけでなく冷蔵庫や製氷機などにも利用されています。
冷温水機
冷温水機はその名の通り、冷却と加熱両方の熱源を作り出す設備です。
熱源を生み出す主な方式は、冷凍機と同様のサイクルを原理にした「圧縮式」と「吸収式」があります。
どちらも蒸発時の冷媒の気化熱を吸収することで冷却し、凝縮時に冷媒の凝縮熱を放出して加熱する仕組みです。
地域冷暖房
地域冷暖房は、地域にある熱供給設備という設備から、地下に埋め込まれた管を通じて冷水や温水・上記などの熱源が供給される仕組みです。
引用:一般社団法人日本熱供給事業協会「地域熱供給(地域冷暖房)イメージ図」
ゴミ焼却廃熱や工場熱、河川水等の温度差エネルギーなどから生じる未利用エネルギーを活用できるため、省エネ効果が高いとされています。
一次エネルギー量削減に繋がるため、脱炭素社会やヒートアイランド対策など環境や地域への貢献度の高さも利点でしょう。
熱源設備に台数按分が必要な例と算出方法
省エネ適合検査やZEB認証などの申請時に、「熱源設備の台数按分をしてください」と指摘されるケースがあります。
その多くは、モデル建物法を利用して省エネ計算をした際に、空調熱源の台数が「0.47」など整数でない数値になってしまった場合です。
ここでは、熱源設備に台数按分が必要な例と対応方法について具体的に解説します。
ひとつの熱源設備で複数の室を空調している場合
モデル建物法を利用して省エネ計算をした際、ひとつの熱源設備で複数のモデル建物の室を空調していると台数按分が発生するケースがあります。
たとえば、省エネ計算方法が異なる事務所と美容院などをひとつの室外機で空調している場合です。
その場合、室内にある空調機の能力で按分します。
たとえば定格冷房能力が20.0kWの室外機に対し、8.0kWの事務所と12.0kWの美容院の室内機で按分する場合、下記の結果になります。
対象室 | 計算式 | 結果 |
事務所 | 8.0kW/(8.0kW+12.0kW) | 約0.4台 |
美容院 | 12.0kW/(8.0kW+12.0kW) | 約0.6台 |
ひとつの熱源設備に評価対象外の室が含まれている場合
モデル建物法を利用して、ひとつの熱源設備で複数の室を空調している空調設備を計算する際、評価対象外の室内機が含まれていると台数按分が発生するケースがあります。
厨房やサーバー室などの空調設備が、モデル建物法の対象外です。
たとえば定格冷房能力が20.0kWの室外機に対し、6.0kWの事務所と10.0kWの飲食店、4.0kWの厨房の室内機で按分する場合、下記の結果になります。
対象室 | 計算式 | 結果 |
事務所 | 6.0kW/(6.0kW+10.0kW+4.0kW) | 約0.3台 |
飲食店 | 10.0kW/(6.0kW+10.0kW+4.0kW) | 約0.5台 |
厨房 | 4.0kW/(6.0kW+10.0kW+4.0kW) | 約0.2台 |
省エネ性能を向上させる熱源設備の利用方法
熱源設備にはさまざまな種類や方式がありますが、省エネ適合検査を通過したりZEB化を目指したりする場合は、省エネ性能に配慮するのが重要です。
ここでは、省エネ性能を向上させる熱源設備の利用方法を3つ解説します。
熱源設備の負荷に応じて稼働台数を制御する
熱源設備が複数設置されている建築物では、室内を快適に保つのに必要な台数のみ稼働するようにすると、エネルギー消費量の削減が可能です。
また夜間など人が活動していない時間に熱源を製造することで、日中の稼働が効率的になり、熱源設備への負荷が少なくなります。
特に設備の負荷に応じて自動で稼働台数や温度設定を実行できるものを選ぶと、手間や管理のコストが減るでしょう。
外皮性能を向上させる
建築物の外皮性能が高いと冷暖房の効率が上がるため、冷暖房に使用する熱源設備のエネルギー消費量を抑えられます。
外部からの熱を遮断する力が高い断熱材や二重サッシ窓を採用するなど、建築物の外皮性能を向上させる設計が重要です。
COP(成績係数)の大きい設備を採用する
COPとは省エネ性能を示す指標で、数値が大きいほど省エネ性能に優れていると評価されます。
建築物に熱源設備を導入する際は、COPの値が大きいものを採用しましょう。
設備の買い替えを検討する際も、現在使用している設備よりもどの程度省エネ性能が向上するか判断する基準としてCOPが利用できます。
まとめ
建築物の空調熱源設備は、室内の空調を快適に保つのに必要不可欠です。
しかし、省エネ計算の際に熱源設備の台数按分が必要になるなど、複雑な計算を求められるケースもあります。
省エネ計算が複雑で手間だと感じた場合は、省エネ計算を代行してくれる会社の利用を検討するのがおすすめです。
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